新しい上映情報コメントレビューをご覧ください。

有末 剛 様より

 

岡本さんとは不思議な縁で知り合った。十年以上も前に付き合っていた彼女がテレビに

映し出された岡本さんの姿に熱狂し、製作したテレビ局宛てに手紙を出して、

その興奮を伝えた。それに対して岡本さんは丁寧な手紙をくださった。

テレビの中の岡本さんは桜の木か何かの木の下で人形と交わり踊っていた。

手紙の内容は、今度、東京で公演があるから見に来て欲しいというものだった。

舞台の上で、岡本さんは人形を抱えながら、圧倒的な勢いで踊っていた。

人形に生命を与え、その生命と同化して踊り続ける岡本さんのエネルギーは

生命体としての躍動感が満ちていた。私の中に岡本芳一という楔が打ち込まれた瞬間だった。

時が経っても、私の中には岡本さんが絶えず生きていて、ときどきその躍動が

動脈を通って心臓の鼓動を高鳴らせたりすることがあった。

それから十年近く経って、映像という遺影のなかで岡本さんに会うことになるとは

思ってもいなかった。もはや一緒に舞台をすることは不可能になってしまった岡本さんは、

あの時の躍動感溢れる舞台とは真逆の、静寂で、静かに脈を感じながら人形の中の

生命体の終末を愛おしむような姿があった。

そして、私の彼女も私に伝えたかったのは、岡本さんが人形に注ぐような

愛だったのではないかと思う。


有末 剛(緊縛師「花と蛇」シリーズ)

 

水井真希 様より

 

無機質なお人形が

怖くて

私には

肉感的でないから

精神性ばかりが

ひきたつ

 

水井真希(女優「終わらない青」主演)


中田新一 様より

 

渡邊世紀はナイーブで可憐な女性を描く事に長けたフォトジェニックな監督のように思われている。

しかし決して奇麗なだけの作品を良しとしない。むしろ石を抱きて野に謳う歌人を好む。

ドキュメント『百鬼どんどろ』で摩訶不思議な人形遣い岡本芳一に彼が見つけたものは何か?

作家として楔を打ち込まれたように立ち竦んだのは何故か?

答えを求めんとカメラを撮った。そして一本の作品が出来上った。

「VEIN-静脈-」である。

 

人形遣いの男は少女(人形)と一体化しようと自らの血を人形に注ぎ続ける、

それは自己表現のための痛々しい営みだ。

その生き様に共感し、のめり込んでいく監督自身の足掻きが見てとれる。

成就しない恋は切実なまでに『痛み』を伴う。それ故にいっそうロマンチックだ。

監督も又この人形遣いに同化しようともがいているようだ。

静脈が返す血のように、たゆたゆと静かな画面から死を賭して生きる者の叫びが伝わってくるようだ。

                        

中田新一(映画監督)

 

綾乃テン 様より

 

VEINを創った年の冬は、岡本さんにとって、一番静かで、

とても長い冬だったのではないかと思う。

 

 「雪が降る、しんしんという音がほしい」

 

人の声がしない、冬の長野のアトリエで一番リアルな音だったのだ、と思う

 

人形がどうしたら生きるのか、どうしたら面白い作品になるのか、お客さんの目線はどうか?

百戦錬磨で歩んできた岡本さんが、改めて真正面から人形と向き合うことになった時間であり、

作品だと思う。

人形たちはみんな俺の分身だと言っていた岡本さんの沢山の人形の中で、

VEINの少女は一番岡本さんの内面が映し出された人形のように思います。

 

岡本さんと一人の少女を通して、痛くて、とても美しい感情をVEINで感じました。

 

岡本さんが、映画を残してくれたことが、私はとても嬉しい。


綾乃テン(ソロパフォーマー)

岩本光弘 様より

 

あの世とこの世。

あの時と今。

あなたと私。

トンネル、薬缶、蛇口、窓外の雪景色。

岡本芳一が見つめた風景がここにある。

声を掛けても抱きしめても静寂は続く。

苦悩の愛を知ることは人生の証しかもしれない。

この結晶のような作品を一生眼の中に閉じ込めておきたい。

 

岩本光弘(プロダクション花城)

(「人形のいる風景〜ドキュメント・オブ・百鬼どんどろ〜」企画)